根管治療と再発について
どうして再発するの?
神経を取った歯なのにまた痛みが出てきた、以前に根の治療を行った歯が腫れてきた。歯科医院に行くと『根の先に膿がたまっていますね』と言われた。神経を取る治療を受けた後で、なぜそのようなことが起きるのでしょう。
これは根の治療が非常に難しい治療であることが関係しています。
根管治療が難しい3つの理由
1.目に見えない細菌との闘い
痛みの原因は、細菌の感染による炎症です。根の中で増殖した細菌は、根の先まで進み、根の先に膿がたまります。膿は周囲の骨を溶かすため、X線で根の先が黒く写って見えます。
しかし、治療中に細菌を目で見て治療できるわけではなく、目で見えない相手だからこそ、治療中は細菌を新たに入り込ませない環境作りが重要であり、その上で徹底的に細菌を取り除くことが治癒につながります。治療中に唾液が根の中に入りこむようでは、治療を行う意味がありません。そのための無菌的環境づくりの手段としてラバーダムという方法があります。
ラバーダムとは
根管治療を成功させるためには治療を行う際、治療部への細菌の感染を防ぎ無菌化することが非常に大切になります。ラバーダムは、薄いゴムシートで治療部位以外を覆い口腔内の唾液から治療部位への細菌感染を防ぐ歯科機器です。
2.根の形が複雑
わずか1センチ程度の根の中で、神経の管は複雑に走行しています。幅が細く狭くなっていたり、大きく曲がっていることも多く、その中を全て清掃・消毒することは不可能なのです。
とくに再治療の場合、細菌が奥深くまで入り込んでしまっており、治療の成功率は著しく悪くなります。何度も治療が繰り返されることで、本来の管の形が壊されてしまうことも、治りにくい要因の一つです。
3.手探りでの治療
神経の管は細いものでは直径0.1㎜以下。太いものでも、これまでは根の中の状態がどうなっているのかを直接、目で見ることはできませんでした。実は長年、根の治療において、綺麗になっているかの判断は、歯科医師の指の感覚に頼る部分が大きかったのです。これでは、治らないケースがあっても当然と言えるでしょう。
しかし、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)の登場により、治療精度が一変しました。奥歯であっても、強い照明を利用して拡大視野で根の中を確認することができるようになったのです。汚染物が残っていないか、穴がないか、根の入り口を探す、などを直接確認しながらの治療が可能となり、逆に言えば、今までの裸眼での治療がいかに不十分であったかもわかってきたと言えます。(ルーペはかなり有効ですが、マイクロスコープの拡大率に比べると不十分です。)
3つの理由から言えること
このような理由から、細菌感染に対するコントロール、神経の管の走行に対する知識、ルーペやマイクロスコープなどの拡大装置を使用する、ニッケルチタン製ファイルを使用するといった確固とした治療システムが確立されていない状況下での根管治療は、根の中に取りきれなかった細菌が残っている可能性が高まります。X線写真ではきれいに根の中に薬が入っているように見えても、根の先に膿が再発してしまうのは、ほとんどの場合これらの条件のいくつかが欠けているからです。
そして、いわゆる保険診療で認められている範囲での根の治療においては、治療時間や費用、使用できる器材や薬剤の制約があるため、これらを完全に行うことは不可能です。
とはいえ、マイクロスコープを用いて精密に処置を行うには十分な治療時間が必要であり、その取り扱いに習熟するためにも長い経験が必要となります。顕微鏡があればだれでも良い治療ができるわけではなく、あくまでも治療技術をサポートするものなのです。
再発しないために重要な考え方
根の治療を数か月も続けたけれど、『抜きましょう』と宣告された、いよいよダメになったと言われたから、根の治療で歯を抜かずに済ませたい。これでは、手遅れの場合があります。
根の治療、早ければ早いほど良くなおる!
歯を失わないための最大のキーポイントは、初期の根の治療にあります。
初めて神経を取る治療の時に、根の治療に精通した歯科医師のもとで精密な治療を受けることこそが最も有効な再発予防策と言えます。遅くとも2度目の根の治療までが、その歯が失われるかどうかの未来がかかっています。これには以下のデータの裏付けがあります。
繰り返しの治療
しかし、担当医が精密な根管治療を行ったとしても、複雑な管の先まで消毒が及ばない場合や、根の外側まで感染が及んでいる場合などでは症状が改善しないこともあります。そのようなケースでは、想定される感染源を直接取り除く、外科的な処置が適用となります。マイクロスコープを用いた外科的歯内療法(歯根尖切除を伴う逆根管治療や意図的再植)は、従来の手法に比べて格段に成功率が高く、有効な治療法として確立されています。
また、残念ながら根管治療に熟知した歯科医師でも歯を残すことができない場合があります。それは、根が完全に割れてしまっている(破折)ケースや、むし歯が深すぎて、根がほとんど残らないケースです。このような時には、根管治療の適応とならないため、抜歯の提案を致します。
歯にひびが入っている場合も非常に難しいケースです。ひびの進行が予測されるため、程度によっては抜歯を勧めることもありえます。どうしても歯の保存を希望される方へは、将来的な破折による抜歯リスクを理解していただいた上で根管治療を行っております。
治療後の見通しについては、予後の良否の解説フローチャートをご覧下さい。
まとめ
根の形態は複雑
精密な治療には時間がかかります。
ラバーダム防湿は必須
細菌感染への有効な対策です。
マイクロスコープは必要
拡大、明視下での治療で精度がアップします。
NiTiファイルを使用する
複雑、湾曲している根の形に沿った治療です。
必要に応じCTを撮影する
病変の広がりや根の割れを調べます。
精密な治療には時間と費用がかかる
精密な根管治療は保険外の自由診療費用がかかります。
保険診療で最善の手を尽くす適正な治療は困難です。